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2022.12.01 UP

【連載2/2】
設計士 毛利隆之に聞く
京町家改修でつなぐ
古き良きものと記憶
▽こだわり編

前回までのお話

京町家で生まれ育ったことがきっかけで設計士になられた毛利さん。子供のころからあった京町家へのシンパシーを基に古き良きものや建物に残る人の記憶を大切にする設計への強い想いが京都オフィスの様々な箇所で感じることができます。
一般住宅とは違い魅せる演出を意識したというオフィスの改装にはどのようなこだわりがあるのでしょうか。
今回は「こだわりポイント」と「今後への期待」についてお伺いしていきます。

最もこだわったポイントについて
今後の京都オフィスに期待すること

最もこだわったポイント

ーこだわりは「人の動きを考えた間取り」

紅中:ここまで、改修に対する想いや大切にしていることをお伺いしてきましたが、毛利さんが京都オフィスの設計をするなかで一番こだわったポイントはどこですか。

毛利:改修プランとしては極力元々の架構(※1)を意識した間取りに戻しつつ、可能な限りの構造および断熱補強を行うこととしました。最終形態としては町家らしいファサードを復元した入口からギャラリーを通って営業所の玄関へ。吹き抜けの階段を上って2階の執務スペースに至り、奥にある畳間のミーティングスペースとキッチンを展示したコミュニティスペースが、リビングとダイニングをイメージさせるような流れを大切にしました。

※1 架構

骨組みとなる部材を結合して組み立てた構造物。

紅中:町家らしいファサードとは具体的にどのようなところがポイントでしょうか。

毛利:改修前と改修後で大きく違うのはシャッターから木製の格子戸に変わったところです。古くからの町家のファサードの特徴のひとつである出格子(※2)も再現しました。

※2 出格子

格子が外壁から突出していて足元が浮いている状態のもの。

紅中:大きく開放的な入口は印象的ですよね。

毛利:オフィスの立地が二条駅から近いこともあり、人通りの多い道路沿いにあるため前を通った人が「ここ何だろう」「ここが紅中のオフィスか。素敵だな。ひと味違うな。」と感じてもらうためには入口は重要な場所です。入口の建具は元が住宅なのでこれほど大きくはなかったかと思いますが、1階がギャラリーなので大きく開いて複数人が行き来できる幅を確保しました。

京町家らしさを再現した出格子

大きく開く三枚建て格子戸

紅中:ギャラリーのことも考えての大きな入口だったんですね。存在感があって素敵です。

毛利:大きな入口から入ってギャラリーを通りオフィスの玄関に向かう流れになっています。ギャラリー側から営業所に入るためには大きな蔵戸を開けて入ります。こちらの建具は蔵に使われていたケヤキの古建具でをリメイクして使用しています。現在新しく建てられた家の建具は特注のものが多く、ほかの家に持っていくと使用できないものも多いのですが、昔ながらの家や建具は寸法が同じものが多いのでそのまま使用することができるものも多いんです。古くからあるものを取り入れることで町家らしい雰囲気が出ますよね。

オフィスの玄関側から見た蔵戸

ギャラリー側からみた蔵戸

紅中:なるほど。建具ひとつとっても毛利さんのこだわりを感じることができますね。オフィスの玄関は吹き抜けが印象的だと私は感じています。

毛利:ありがとうございます。京都らしい入口から入ってきて天井が低いところを通ってくると最後の空間が吹き抜けになっていて、そこの階段を上っていくとまた天井が高い空間が現れるようになっているところがこだわりポイントのひとつです。歩いて入っていくなかで雰囲気が変わっていくシークエンス(※3)を大事にしました。住宅ではアプローチをあまり長くすることは好まれませんが、お客様が訪れるオフィスなのでそのような演出があってもいいのではないかということでこのような設計を提案しています。

※3 シークエンス

建築におけるシーケンスはシークエンスデザインとも呼ばれる。 「移動することで変化する景色」、「徐々に変わっていくデザイン」のこと。 空間(線、面)や光など、様々な場面で用いられる。

紅中:歩いて入っていく毎に雰囲気が変化していくことが考えられていたんですね。執務スペースを抜けると見える畳の会議室が良いですよね。

毛利:はい。一番奥の大事な場所に畳間を造りました。「会議室は畳間に」という要望があり、面白いと思い取り入れることにしました。住宅で言うとリビングのような場所をイメージしていて皆さんが集まって話ができるミーティングスペース(会議室)にしました。

紅中:なるほど。畳間の会議室は私もお気に入りの場所の一つです。毛利さんのこだわりは町家らしいファサードと人の動きを考えられた間取りに詰まっていたんですね。

開放的な吹き抜け

勾配天井の執務スペース

畳間の会議室

町家らしいファサード

今後の京都オフィスに期待すること

ー人が集まる場所にしたい

紅中:改修が終わった際どのようなことを感じましたか。

毛利:「町家らしさを取り戻す改修」によって、最初に感じた見た目や構造等の”もったいなさ”は払拭されました。働く社員の方と訪れる来客の方にとって魅力的なオフィスができたなと思いますね。町家らしいファサードを意識したことにより「京都らしい町並みを守る」ための一歩にもなったという手応えを感じています。

紅中:”京都らしさ””町家らしさ”を取り戻すことができた改修になったんですね。改修して5年が経ちましたが、今後の京都オフィスにどのようなことを期待しますか。

毛利:そうですね、やはり近所の人や縁のある人たちがもっと近づいてくれる場所になればいいなと思っています。せっかくグランドレベル(※4)にあるギャラリーやカフェの出入りも増えていくとなお良いかなと思います。

紅中:ありがとうございます。京都オフィスを活用して人が集う場所に一緒にしていければと私たちも感じています。

本日はインタビューにお付き合いいただきありがとうございました。

毛利:ありがとうございました。

※4 グランドレベル
ここでは地上1階のこと。

毛利 隆之 | 鴨川建築工房

・1976年:京都生まれ
・2001年:京都大学工学部建築学科卒業
    その後、設計事務所や工務店で勤務
・2013年:STAGE 一級建築士事務所として独立
・2019年:建設業許可取得と同時に鴨川建築工房と改称

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