なぜ今、企業が「森」と向き合うべきなのか
二酸化炭素(CO₂)は目に見えない存在。日々の生活や仕事の中で意識する機会は少ないという人がほとんどでしょう。
けれど今、気候変動などの自然現象への向き合い方までもが企業の価値や信頼、採用力にまで影響する時代になっています。世界各国が気候対策の進捗を話し合う国際会議(COP)や、国際的な約束事(パリ協定)を背景に、企業にも「CO2の排出量を把握し、削減や吸収に取り組む姿勢」が求められています。
大切なのは、「知らなかった」から「知って行動する」への一歩を踏み出すこと。
本記事では、アイフォレスト株式会社の丸山様(以下敬称略)と共に、見えないCO₂を「見える化」する仕組み=カーボンクレジットや、国産材の教育ツールキットコットや檜原村プロジェクトの具体例を通じて、森と企業(人)がつながる方法を考えます。
今回のインタビューのお相手は
アイフォレスト株式会社 丸山様
アイフォレスト株式会社は、「人と森のつながりを再構成する」をビジョンに掲げ、テクノロジーと仕組みづくりで林業の持続可能性に挑むスタートアップです。森林価値の可視化やカーボンクレジット事業、国産材を活用したプロダクト開発を通じ、地域と自然が循環する未来の実現を目指しています。
私たちは日々の生活や経済活動の中で多くのCO2を排出しています。本来、CO2は森林や海など自然の力によって吸収されますが、近年は排出量が吸収量を大きく上回り、大気中に蓄積され続けています。CO2が増えることで地表の熱が閉じ込められ、気温上昇とともに水蒸気が増加し、さらに温暖化が進む悪循環が生まれます。
この状況を改善するために生まれたのがカーボンクレジットの仕組みです。
カーボンクレジットは、CO₂の排出削減や吸収を数値化し、価値として取り引きできるようにする仕組みです。
排出されたCO2に価値を与え、その対価を森林保全などの取り組みに還元することで、森を守り、育て、CO2を吸収できる力そのものを回復させていきます。排出を減らす努力と、自然の再生を同時に進めることが、持続可能な未来への一歩となります。
- 排出量を測る:企業や生活で出るCO₂を算定
- 吸収量を測る:森林などが吸収するCO₂を算定
- クレジット化する:一定量(例:1トン)を“価値”として取引可能にする
ーー目に見えないものが、なぜ取引できるのでしょうか。
丸山:測定技術と透明性があるためです。衛星データやセンサー、統計・生態学の知見を組み合わせることで、排出・吸収を同じ“ものさし”で数えることができるようになってきました。
さらに、取引の履歴や使い道を記録・公開することで、どこの森で、どんな整備に資金が使われたかを追跡できる仕組みも整いつつあります。いわゆるトレーサビリティが確保できるという点が信頼に至る大きな点だと思います。
①CSR・ESG評価の向上:環境への具体的な貢献を、数値とストーリーで示せる
②採用ブランディング:サステナブル志向が強い学生・若手人材への訴求力が高まる
③社会的信頼の獲得:サプライチェーンの透明性強化、国内調達(国産材)との相乗効果
ーーなぜカーボンクレジットの取り組みを始めたのでしょうか。
丸山:森は、空気と水の循環を支える“見えないインフラ”であり、守り手を増やす・整備を続ける仕組みを作ることが不可欠だと考え、森に還元できる活動を続けています。
日本の森は、スギ・ヒノキなどの人工林の割合が高く、広葉樹が減少している地域が多くあります。
その結果、山のエサ資源が乏しくなり、熊やイノシシの里への出没(獣害)が増えるなど、都市の暮らしにも影響が出ています。背景には、地方の人口減少による山の手入れの人手不足、手入れのコストが高く整備が続けにくい現実があります。
ーー進めるうえで難しいと感じる点を教えてください。
丸山:カーボンクレジットは目に見えず、日常生活の中で実感しにくい仕組みであるため、仕組みそのものを返礼品にしても、多くの人には価値が伝わりにくいという点が難しいです。
そこで、クレジットを生み出している「現場」を体験してもらうことを考えました。
クレジットを生み出す森林へ実際に足を運び、今の森の状態や、森林整備によってどのように環境が変わっていくのかを現地で知ってもらう体験です。
林業の仕事は「木を切ること」だけではなく、森を維持し、循環させるための多くの工程があります。その一端として、伐採現場の見学や、希望者には丸太を実際に切る体験を用意することで、森林整備が暮らしの裏側を支える仕事であることを体感できる機会をつくっていきたいですね。
ーーなるほど。カーボンクレジットに関わる全ての方に活動を”実感”してもらうことが大切ですね。
丸山:はい。また他にも、森の体験を単なる見学で終わらせず、スギやヒノキの枝葉を使って蒸留し、エキスやアロマを抽出する体験も返礼品に組み込むことができないかと考えています。森の中で採れた素材が形を変え、香りとして手元に残ることで、「この体験がどこから来たものなのか」を感覚として持ち帰ってもらうことが目的です。
重要なのは、「買って終わり」ではなく、伝え方と関わり方を工夫すること。この“伝わる化”に挑む取り組みが、紅中さんと考えているプロジェクトです。
丸山:現在、東京の山間部檜原村を舞台に、クレジット×教育×体験を組み合わせたプロジェクトが動き始めています。
カーボンクレジットは数字の話になりがちですが、今回の狙いは、「買う」だけで終わらず、自分事として森に関わってもらうことです。
その方法のひとつとして紅中さんの「キットコット」を使用できないかなと思っています。
紅中オリジナルの木製クラフトキットと絵本のセット商品。
くわしくは以下VMで紹介中!
≫親子で楽しむクラフトキット「キットコット」の魅力とは?
≫「やってみたい」を形にキットコットが生まれるまで
丸山:キットコットはオリジナルで絵本をつくることができるので、カーボンクレジットをおこなう森によって物語とキットを考えることでより”体験”を濃くすることができると思うんです。
親子でたのしめるクラフトキットということで、お子様に対する”教育(木育)”という部分も取り組んでいけそうですよね。このプロジェクトについてはこれからどんどん動いていくと思うのでたのしみにしています。
丸山:現在のカーボンクレジット市場では、クレジットそのものが目的化し、森林の実態が十分に語られないまま取引されているケースも少なくありません。
どの森で、どのように管理されて生まれたクレジットなのかを、販売者自身が正確に把握していないこともあります。その結果、購入する側も排出量を数字上で下げることに意識が向き、森林の現状や、そのお金が何に使われているのかを知る機会を持ちにくくなっていると感じています。
こうした無機質な関係では、人の関心は育たない。だからこそ、どの森をどう守り、クレジットによって何が変わっているのかを丁寧に伝え、時には実際に森へ足を運んでもらう関係性を築くことを重視しています。透明性を確保し、森と人を直接つなぐことが、本質的な価値につながると考えているので、これからも様々な活動を続けていきたいです。
企業にとってカーボンクレジットを考えることは、単なる環境配慮や社会的評価のための取り組みではありません。自らの事業活動が自然環境と切り離せないものであると認識し、その関係性を持続可能な形へと再構築していく選択です。
排出を減らす努力と同時に、自然がCO2を吸収できる力を守り、育てること。その両立こそが、企業の成長と社会の安定を支える土台になります。カーボンクレジットは、企業が「責任を果たす存在」から「未来をつくる存在」へと踏み出すための、現実的で具体的な一歩なのだと今回改めて気づくことができました。
キットコットを通じてのアイフォレスト様との取り組みを今後もおたのしみに!
取材協力