TRY IT.
2025.12.01 UP

【連載1/2】
技術が息づく飛騨産業の家具
ーものづくりを知るvol.1

ものづくりを知る

紅中の工場見学シリーズ「ものづくりを知る」
ものづくりの現場を訪ねてお聞きしたお話、ものづくりの舞台裏、VM編集者が感じたことをみなさまにお届けします。

 

今回の工場見学先は飛騨産業様です。(以下敬称略)

家具を選ぶとき、みなさんはどんなポイントに注目していますか。
素材や色、デザイン、産地、ブランド、、、
お気に入りを探す過程も、家具選びの楽しみのひとつですよね。

家具は、暮らしに長く寄り添う存在です。
その家具がどのように生まれているのかを知るため、工場を見学してきました。
そこで見えたのは、ものづくりの奥深さと、職人のこだわりでした。

Vol.1「飛騨産業」

 

家具の名産地として広く知られている岐阜県飛騨地方。古くは飛鳥時代から「飛騨の匠」と呼ばれる木工技術を持つ職人たちが、奈良のへ平城京や東大寺など名だたる建築物を手掛けたと言われています。
現在でも職人の文化や技術は受け継がれ、飛騨は家具の名産地としてたくさんの家具工場があります。

「飛騨産業」はそんな飛騨に拠点を置く大正時代に創業した家具メーカーで、日本の家具メーカーの中でも古い歴史を持つメーカーです。

今回は
・第一工場(家具製作)
・第二工場(縫製・修理)
・飛騨職人学舎
・上宝工場(製材・圧縮)
・奥飛騨 栃尾工場(温泉熱乾燥)
を見学させていただきました。

第一工場(家具製作)

第一工場では板の木取りから部材の加工、組み立て、塗装、梱包まで家具製作の工程をおこなっています。
その中のいくつかの工程の様子をお届け!

◎木取り、接着
丸太から製材された板を製品の大きさに合わせて切り分けます。天板など大きな部品を製作するためには板を接着して部品を製作。
接着した際に一枚板に見えるように違和感がないように板を見極める職人の目が光ります。

木取りの様子。樹種としては北米のホワイトオークやウォルナットなどの外国産材が多い。

大きな天板などは切り分けた板を職人が見極めて接着。

◎部品の加工
職人の手でひとつひとつの部品が加工されています。機械が発達しレーザー加工が簡単にできるようになった中で、家具の製作では職人が手で触って目で見て作業することが製品の品質を上げるひとつの要因となっています。

肘木、座面、背板など全ての部品を丁寧に削る。大きさや太さも測ることで仕上がりをきちんと確認。

金属型に倣って材料を削ることのできる「コッピングマシーン」を使用する事で複雑な立体形状の加工も可能。曲線的な椅子の肘木などの加工に使用される。

◎治具
部品の加工に欠かせないのが治具という補助工具です。治具を使うことで早く、正確に量産することができます。
多くの製品に対応するための治具もひとつひとつ職人が作っています。

棚に並ぶたくさんの治具。ひとつの椅子を作るのに棚ひとつ分の治具を使うものも。

◎曲木
飛騨の椅子はこの”曲木”の工程が最大の特徴です。
高温の窯で木材を蒸し、柔らかくなった木材を曲げ型に入れてプレスすることで特有の形をつくる工法です。
大きな木材から切り出したり、部材をつなぎ合わせたりする方法よりも強度やデザイン性が上がることがいいところです。

曲木をおこなう様子。割れやすいといわれるナラの木も曲げてしまう技術は飛騨産業の唯一無二の技術。

曲木の技術によって生み出された美しい曲線。デザイン性が高いのももちろん、座る人がもたれた際に心地よい様に考えられた曲線に飛騨産業の細やかなこだわりを感じる。

VM編集者が見た!感じた!

単純に工程や部品の多さに驚きました。椅子一つ出来上がるまでに10以上もの工程があり、30個以上の治具を使用するものも。それに伴って関わる人の数も多く、大切に丁寧に作り上げていくんだなと思いました。普段椅子を購入したり、使用する際に「この椅子かっこいいな」「おしゃれだな」「座り心地がいいな」と思うことはあれど、正直どうやって作られてきたかどこにこだわりが詰まっているかまで考えたことがなく、、、背板の曲線の角度、座面の高さ、座グリの深さなどなど作り手の細かい心遣いがこもっていることを目の当たりにして改めて考える機会となりました。

第二工場(縫製・修理)

第二工場では椅子やソファの座面の縫製や回収した家具の修理・修復がおこなわれています。

◎縫製
シリーズごとに内部のウレタンやスポンジの配合を変えて製作しています。生地を選んでひとつひとつ手作業で縫製をしていき、完成した部品は第一工場に運ばれ組み立てられます。

それぞれ商品に合うようにウレタンなどをカットしていき、布を巻いていく。皺が入らないように布を張ることで美しい座面に。

生地のパーツの組み合わせはミシンで。全自動の機械ではなく人の手で確認しながら進めることで丁寧な仕上がりに。

◎修理
飛騨産業の家具の大きな特徴のひとつは10年保証制度が導入されていることです。家具の耐久箇所(木部)については工場出荷日から10年間、製作過程の不具合による破損の場合は無償修理を実施しています。

色落ちや日焼けなど色味の修正が必要な場合は、一度表面を削ることですべてを均一にし再塗装。仕上がりは新品同様に。

修理依頼の内容によってはすべての部品をバラバラにすることも。細かな傷もパテ等で埋めて、再塗装し仕上げる。
ベテランの技術者が向き合ってひとつずつ作業することが飛騨産業が選ばれる理由のひとつ。

VM編集者が見た!感じた!

愛着のある家具を一緒に、同じ温度感で大事にしてくれる飛騨産業の想いをひしひしと感じました。修理依頼は年間に約4000件ほど届くそうです。中には親子二代以上に渡って使用されている家具もあるとか。(ちなみに現在修理を担当している職人さんも親子二代に渡って飛騨産業で修理をおこなっているという素敵なエピソードも。)
第一工場でもそうでしたが、機械の技術が発達した現代で機械任せにして量産できる部分も人の目や手で丁寧に作業することで想いやこだわりを込めてお届けする良さを感じました。

飛騨職人学舎

2014年に開校された飛騨職人学舎。一流の木工家具職人の養成や受け継いできた文化を継承することを目的とした職人学校です。
通う生徒のみなさんは寄宿舎で寝食を共に生活し、毎日技術を磨いています。
1年目は基礎となる手加工の授業を受け、2年目からは工房で作業をします。卒業後はそのまま飛騨産業で働く方もいれば、他のところで働く方も。技術の基礎はもちろん、共同で生活する事で職人としての心も鍛えられています。

ベテランの職人の指導の下で飛騨の職人の技術を学ぶ生徒たち。全国から応募があり若い才能が集まる。

23歳以下の若年者を対象にした技能者のオリンピックである技能五輪全国大会にもここの生徒や卒業生が毎年出場する。
2020年には家具職種で初の金賞を受賞したことも。

ショールームにもお伺いしました!

飛騨産業の家具は、シリーズごとにそれぞれの魅力とこだわりがあります。有名なデザイナーとのコラボシリーズも多くデザイン性が高いことも特徴です。ショールームでは実際に見て触れて魅力を感じることができます。

SEOTO-EX

人気な定番シリーズ。人間工学に基づいた設計で、長時間座っても疲れにくい快適さを追求した椅子。流れるような曲線美と、飛騨産業ならではの匠の技が融合した、機能美あふれるシリーズです。

クマヒダ

隈研吾氏とのコラボで誕生したシリーズ。流れるような曲線と軽やかなフォルムが特徴で、飛騨産業の高度な曲木技術が光ります。木の質感を活かし、シンプルで上質なデザインは、暮らしに洗練された温もりを届けます。

森のことば

無垢材の節や木目をそのまま活かしたシリーズ。一本一本異なる表情を持つ木の個性を楽しめるのが魅力です。自然の美しさを取り入れたデザインは、温もりある空間を演出し、暮らしにやさしい豊かさを届けます。

穂高

1970年代から続く飛騨産業のロングセラーシリーズ。クラシックなデザインと、無垢材の重厚感が特徴で、どこか懐かしい温もりを感じさせます。丈夫で長く使える品質と、時代を超えて愛されるスタイルが魅力です。

Kinoe

木の枝や節など、通常は使われない部分を活かしたサステナブルなシリーズ。自然の個性をそのまま取り入れたデザインは、一本一本異なる表情を楽しめます。環境にやさしく、飛騨産業ならではの技術で仕上げた、温もりと遊び心あふれる家具です。

HIDA DADA

デザイナー三澤遥氏と飛騨産業のコラボで生まれたシリーズ。左右非対称のアームデザインが特徴で、遊び心と職人技が融合。短材を組み合わせたサステナブルな発想で、木の個性を活かしたユニークな椅子です。

前編では家具の製作現場の様子をお届けしました。
飛騨産業では、木取りから縫製・組み立てまで全工程を自社工場で行っています。椅子やテーブルはシリーズごとに背もたれの角度や座り心地、素材まで異なり、職人のこだわりが詰まっています。ショールームでは「使ってみたい」「家に置きたい」と思える魅力が満載。製造過程を見学することで、より深く“一生もの”の価値を感じられました。
次回記事では上宝工場・奥飛騨 栃尾工場で教わった飛騨産業が誇る技術についてご紹介します。